3次元空間における水素原子ハミルトニアンに対する固有値問題*1
\begin{equation}
-\dfrac{1}{2}\Delta \psi - \dfrac{1}{|x|} \psi = E \psi,\quad x \in \mathbb{R}^3
\end{equation}
について, 1s軌道に対応する基底状態解を考察します.
よく知られているように, 基底状態解は球対称であるため,
と変換することにより, 未知関数 についての方程式
\begin{equation}
\left(-\dfrac{1}{2}\dfrac{d^2}{dr^2} -\dfrac{1}{r}\dfrac{d}{dr} -\dfrac{1}{r}\right)u = E u,\quad r \in (0,\infty) \tag{1}
\end{equation}
と変形できます.
さらに, (1) に対して, をかけて部分積分することにより弱形式
\begin{equation}
\left\langle \dfrac{r}{2}\dfrac{du}{dr}, \dfrac{r}{2}\dfrac{d\phi}{dr}\right\rangle
- \left\langle \sqrt{r}u, \sqrt{r}\phi \right\rangle
=E \left\langle ru, r\phi\right\rangle \tag{2}
\end{equation}
を得ます*2.
本記事では, 1次元における固有値問題 (1) に焦点を当てて, 適当な関数空間での変分問題と見なすことで, 特に陽に境界条件を与えることなく基底状態解が得られることを解説していきます.
また, 本記事は有限要素法による数値計算について紹介している, dc1394さんの記事
qiita.com
についての考察を兼ねています.
モデリングや数値計算の箇所を読んでいて, 境界条件を設定していないように見えるのに, 正しく基底状態解が得られていることが気になり調べてみました.
なお, 弱形式の導出などについても紹介記事にて丁寧に行われているため, 気になる方はそちらを参考にしてみてください.
レイリー・リッツの特徴づけ
固有値問題の解は, 次に述べるように汎関数の停留点として特徴づけられます*3.
ヒルベルト空間
\begin{equation}
X= \left\{ u\in L^1_{\text{loc}}(0,+\infty)\, |\, \int r^2 \left(|u(r)|^2+ \left| u'(r)\right|^2\right) <+\infty\right\}
\end{equation}
における汎関数 を\begin{equation}
F(u) = \dfrac{\displaystyle\int \left[\tfrac{1}{2}r^2 | u'|^2 -r|u|^2\right]\,dr}{\displaystyle\int r^2|u|^2\,dr},\quad X\setminus\{0\}
\end{equation}
このことは, 弱形式 (2) において試験関数を ととり について整理することでも理解ができます.
汎関数 の最小化元が基底状態解となること
実数 を汎関数 の最小値とし, 関数 を汎関数 の最小化元としましょう.
条件 からは, 遠方での減衰は課されていると見なせる一方で, 原点での制限はかなり緩いことがわかります*5.
実は, この条件だけでも, は水素原子の基底状態解となることがシュレディンガー方程式の性質からわかります.
このことを見ていきましょう.
まず, により もまた の最小化元となります.
ここで
\begin{equation}
\psi(x) = | u^\ast(|x|)|,\quad x\in \mathbb{R}^3
\end{equation}
と定めると は弱形式 (2) の解であることにより
\begin{equation}
-\dfrac{1}{2}\Delta \psi -\dfrac{1}{|x|}\psi = E^\ast \psi,\quad x\in \mathbb{R}^3
\end{equation}
の弱解となります.
水素原子の基底状態解を とし, 方程式に をかけて積分すると,
\begin{equation}
\langle \nabla \psi, \nabla\psi_0 \rangle -\left\langle \left(\dfrac{1}{|x|}+ E^\ast\right)\psi, \psi_0 \right\rangle= 0.
\end{equation}
一方で基底状態に対応するエネルギー準位を とすると, なので同様の計算から,
\begin{equation}
\langle \nabla \psi_0, \nabla\psi \rangle - \left\langle \left(\dfrac{1}{|x|}+ E_0\right)\psi_0, \psi \right\rangle= 0.
\end{equation}
これらは実数値関数であることから, 辺々引くことで
\begin{equation}
(E^\ast - E_0) \int \psi_0\psi = 0
\end{equation}
を得ます. は正で は非負なので積分は正となり, を得ます.
特に は基底状態解であることがわかりました.
また, この証明からシュレディンガー方程式
\begin{equation}
-\dfrac{1}{2}\Delta \psi - \dfrac{1}{|x|} \psi = E \psi,\quad x \in \mathbb{R}^3
\end{equation}
の非負の解は, 基底状態解に限られることもわかります.