変分法の直接法で、ラプラシアンの第一固有関数と第一固有値を手に入れる

この記事では, 滑らかな有界領域  \Omega \subset \mathbb{R}^n に対して Dirichlet Laplacian の第一固有関数  u_1 と第一固有値  \lambda_1 を変分的な手法で得ます.
すなわち, 次の Dirichlet 条件付き楕円型偏微分方程式を満たす固有値  \lambda\in \mathbb{R} と固有関数  u=u(x) を求める問題を考えましょう.

\begin{equation}
\begin{cases}
- \Delta u = \lambda u, &\text{in } \Omega,\\
u = 0, &\text{on } \partial \Omega.
\end{cases}\tag{P}
\end{equation}

簡単のため, 固有値の中でも最小の第一固有値と, 第一固有関数に着目して解いていきます.

レイリー・リッツの特徴づけ

第一固有値  \lambda_1 は次のように特徴づけられる.
\begin{equation}
\lambda_1= \inf\left\{ \frac{\|\nabla v\|^2_2}{\| v\|^2_2} ;v\in H_0^1(\Omega)\setminus\{0\}\right\} \tag{M}
\end{equation}

ただし,  H_0^1(\Omega)ソボレフ空間,  \|\cdot\|_2 L^2 ノルムを表します.
以下では, まずはこの最小化問題が解を持つことを解説していき, 次いでその解がもとの固有値問題の解になっていることを述べます.

最小化列を取る

まず, 最小化問題 (M) に対する最小化列を  \{u_n\}_n としましょう.
つまり,
\begin{equation}
U_n = \left\{v\in H_0^1(\Omega)\setminus\{0\} ; \dfrac{\|\nabla v\|^2_2}{\| v\|^2_2} < \lambda_1 +1/n \right\}
\end{equation}
は任意の  n で空でない*1ので,  v_n \in U_n を任意にとります.

さらに,  u_n
\begin{equation}
u_n = \dfrac{v_n}{\|v_n\|_2}
\end{equation}
により定めると,
\begin{equation}
\dfrac{\|\nabla u_n\|^2_2}{\| u_n\|^2_2} \rightarrow \lambda_1
\end{equation}
となります.

最小化列は弱点列コンパクトであること

ここでは, 関数解析で知られたいくつかの定理を用いることで, さきほど作った最小化列  \{u_n\}_n から極限が得られることを確認します.

ヒルベルト空間の有界列は, 弱収束する部分列を含む.

以上の定理により, 最小化列の部分列  \{u_{n_k}\}_k\subset H_0^1(\Omega) とその極限  u\in H_0^1(\Omega) が存在して,
\begin{equation}
u_{n_k}\rightarrow u \text{ weakly in } H_0^1
\end{equation}
を得ます.

最小化列の部分列の弱極限  u が最小化問題の解であること

さらに, 最小化問題の分母にかかわる,  L^2 での強収束を保証するために次のレリッヒ・コンドラショフの定理を用います.

領域  \Omega\subset \mathbb{R}^n C^1 領域とし,  1\le p \le +\infty とする.
さらに,
\begin{equation}
p^\ast =
\begin{cases}
\dfrac{pn}{n-p}, & \text{if } p < n\\
+ \infty, & \text{otherwise}
\end{cases}
\end{equation}
とする.
このとき, 任意の  q\in [1,p^\ast) に対して次のコンパクトな埋め込みが成り立つ.
\begin{equation}
W^{1,p}(\Omega)\subset L^q(\Omega)
\end{equation}
すなわち,  W^{1,p}(\Omega) での弱収束列は  L^q(\Omega) での強収束列である.

以上により,
\begin{equation}
u_{n_k}\rightarrow u \text{ in } L^2
\end{equation}
を得ます. 特に,  \|u\|_2 = 1 がわかります*2.

さらに, 次の事実も一般論として知られています;

ノルムは弱収束について下半連続である

以上により,
\begin{equation}
\|\nabla u\|_2^2 \le \liminf_{k\rightarrow \infty}\|\nabla u_{n_k}\|_2^2=\lambda_1
\end{equation}

がわかります.

まとめると,

\begin{equation}
\lambda_1 \le \dfrac{\|\nabla u\|_2^2}{\| u\|_2^2} \le \dfrac{\lambda_1}{1}
\end{equation}
により,  u は最小化問題 (M) の解であることがわかりました.

レイリー・リッツの特徴づけから元の固有値問題が得られること

最後に, 最小化問題 (M) の解  u固有値問題の解となっていることを確認しましょう.
汎関数  F:H_0^1(\Omega)\rightarrow \mathbb{R}
\begin{equation}
F(v) = \dfrac{\|\nabla v\|_2^2}{\|v\|_2^2}
\end{equation}
により定めます.
このとき,  t>0 \varphi\in H_0^1(\Omega) について,
\begin{equation}
\lim_{t\rightarrow 0}\dfrac{F(u+t\varphi)-F(u)}{t} =2\left(\langle \nabla u,\nabla \varphi\rangle -\lambda_1\langle u,\varphi\rangle \right)
\end{equation}

であることがわかります.
これは,  u\in H_0^1(\Omega)偏微分方程式 (P) の弱解であることを表しています.

 u\in H^1_0(\Omega) が方程式 (P) の弱解であるとは,
任意の  \phi\in H_0^1(\Omega) について
\begin{equation}
\int_\Omega\nabla u(x)\cdot \nabla\phi(x)\,dx=\lambda\int_{\Omega}u(x)\phi(x)\,dx
\end{equation}
が成立することである.

さらにここから, 楕円型正則性を用いて弱解が古典解であることを示したり, 第一固有関数が滑らかであることを示すことができます.

まとめ

  1. ラプラシアン固有値問題を、レイリー・リッツの特徴づけを用いて最小化問題に帰着させて解いた
  2. 最小化問題に対応する最小化列を構成した
  3. 最小化列は弱収束極限を持ち、下半連続性も相まって最小化問題の解になっている
  4. 最小化問題の解は元のラプラシアン固有値問題の弱解になっていることを確認した

この記事のように, 最小化問題に対して最小化列をとり, 何らかの位相での極限を得ることによって最小化問題の解を得る方法を変分法の直接法と呼びます.

参考文献

ポストモダン解析学 原著第3版

ポストモダン解析学 原著第3版

  • 作者:J.ヨスト
  • 発売日: 2012/07/17
  • メディア: 単行本
大きな流れは, ヨスト「ポストモダン解析学」の第25章を踏襲しました
関数解析 共立数学講座 (15)

関数解析 共立数学講座 (15)

黒田成俊「関数解析」から, 関数解析の事実を参照しています.

*1:さもなくば, infの定義に反する

*2:問題によっては今示した箇所が難しくなります. 前回の記事で示したように, 弱収束だけでは極限についての情報が少なく, 例えば  u = 0 のような可能性を排除する必要があります