この記事では, 無限次元ヒルベルト空間 について,
- 有界な点列であっても収束するような部分列がない場合があること
- 弱収束を考えれば収束するような部分列があること
を述べていきます.
有界な点列なのに, 収束するような部分列がない例
有限次元の場合とは異なり, 無限次元では有界性だけでは集積点が保障されないことがあります.
これは大きさが制限された有界集合であっても, 「逃げる方向」が無限にあるためです.
実際に, 2乗可積分な関数空間 での例を見てみましょう.
次の例は,
wakabame.hatenablog.com
の「例1. めっちゃ振動する」と同じものです.
における関数列 を,
\begin{equation}
f_n(x) = \sin{nx},\quad x \in (0, \pi)
\end{equation}
と定めると, これは における有界列だがどの部分列も収束しない.有界点列であること
半角の公式により, 任意の に対して,
\begin{align*}
\left\|f_n\right\|_{L^2(0,\pi)}^2
&= \int_0^\pi \sin^2nx \,dx\\
&= \int_0^\pi \dfrac{1-\cos{2nx}}{2} \,dx\\
&= \left[ \dfrac{x}{2} -\dfrac{\sin{2nx}}{4n} \right]_{x=0}^\pi\\
&= \dfrac{\pi}{2}
\end{align*}
となり, は に依存しない定数 の大きさを持つ有界列である.収束部分列を持たないこと
積和の公式により, 任意の相異なる に対して
\begin{align*}
\left\|f_n - f_m\right\|_{L^2(0,\pi)}^2
&=\int_0^\pi \sin^2nx \,dx - \int_0^\pi 2\sin nx\sin mx \,dx + \int_0^\pi \sin^2mx \,dx\\
&=\int_0^\pi \sin^2nx \,dx - \int_0^\pi (\cos(n-m) + \cos(n+m)) \,dx + \int_0^\pi \sin^2mx \,dx\\
&= \dfrac{\pi}{2} - 0 + \dfrac{\pi}{2}\\
&= \pi
\end{align*}
が成り立つ.
これより, どんな部分列もコーシー列とならないため, 収束しない.
有界な点列ならば, 弱収束するような部分列を持つ
有界性からは部分列をとっても極限が得られないことがわかりましたが, 弱極限であれば得られることを見ていきましょう.
まず, ヒルベルト空間における弱収束の定義と, 本記事で扱うリースの表現定理を紹介しましょう.
また, リースの表現定理により有界線形汎関数からヒルベルト空間 の元の対応があることに注意します.
それでは, 有界列から弱収束する部分列が得られることを見ていきましょう.
定理 3.
点列 が有界であるとする.
このとき, 部分列 と点 が存在して, は に弱収束する.(証明)
まずは が可分であるときに示そう.
点列 を稠密な部分集合とすると,
\begin{equation}
\{\langle u_n, v_1\rangle\}_n\subset \mathbb{R}
\end{equation}
は実数の有界列だからボルツァーノ・ワイエルシュトラウスの定理により, ある部分列 であって, が収束するようなものが存在する.
さらにこの部分列について,
\begin{equation}
\{\langle u_{n_1(k)}, v_2\rangle\}_n\subset \mathbb{R}
\end{equation}
は実数の有界列だから, 再びボルツァーノ・ワイエルシュトラウスの定理により, 部分列 であって, が収束するようなものが存在する.
以下, 帰納的に, 任意の に対して, 点列 から部分列 を が収束するようなものとして選ぶ.
このとき, 任意の について
\begin{equation}
\langle u_{n_k(k)}, v_j\rangle\
\end{equation}
は において収束する.
そこで とする*2と, 任意の について
\begin{equation}
\langle u_{n_k}, v\rangle\
\end{equation}
は収束する*3. 写像 を
\begin{equation}
F(v) = \lim_{k\rightarrow \infty} \langle u_{n_k}, v \rangle
\end{equation}
により定めれば の有界性により は 上の有界線形汎関数となる.
リースの表現定理から であって,
\begin{equation}
\langle u, v \rangle = \lim_{k\rightarrow \infty} \langle u_{n_k}, v \rangle
\end{equation}
が任意の に対して成り立つようなものが得られる.
すなわちこの が部分列 の弱極限である.次に, が可分でないときについて示す.
\begin{equation}
H_0 = \overline{\mathrm{span}(\{u_n\}_n)}
\end{equation}
は の可分な閉部分空間だから, 先ほどの議論により任意の について
\begin{equation}
\langle u_{n_k}, v_0\rangle\
\end{equation}
が収束するような部分列が得られる.
一般の については, 直和分解 により,
\begin{align*}
\langle u_{n_k}, v\rangle\
&= \langle u_{n_k}, v_0\rangle + \langle u_{n_k}, v_1\rangle \\
&= \langle u_{n_k}, v_0\rangle
\end{align*}
により収束するため, 先ほどと同様の議論がworkする.
この記事では, 無限次元ヒルベルト空間 について,
- 有界な点列であっても収束するような部分列がない場合があること
- 弱収束を考えれば収束するような部分列があること
を述べてきました.
これで, 点列 の有界性さえあれば, "極限もどき" の存在を保証できたことになります.
参考文献
弱収束については, 黒田成俊『関数解析』8章がわかりやすいです.
本記事における証明も, 定理 8.34 の証明をなぞりました.