関数列が弱収束するのに強収束しない場合は, この記事で述べるような3パターンの例があります*1.
この記事では, 2乗可積分なルベーグ空間 を対象とし*2, に弱収束する関数の列 の例*3を考えていきます.
例1. めっちゃ振動する
における関数列 を,
\begin{equation}
f_k(x) = \sin{kx},\quad x \in (0, \pi)
\end{equation}
と定めると, 定数関数 に弱収束するが, 強収束しない.
例2. どこかに凝集する
における関数列 を,
\begin{equation}
f_k(x) =
\begin{cases}
k ,\quad x \in \left(0, \dfrac{1}{k^{2}}\right],\\
0, \quad x \in \left(\dfrac{1}{k^{2}}, 1\right)
\end{cases}
\end{equation}
と定めると, 定数関数 に弱収束するが, 強収束しない.
例3. 無限遠へさまよう
における関数列 を,
\begin{equation}
f_k(x) =
\begin{cases}
1 ,\quad x \in \left(k, k+1 \right),\\
0, \quad otherwise
\end{cases}
\end{equation}
と定めると, 定数関数 に弱収束するが, 強収束しない.
これらの事実について述べます.
準備:強収束・弱収束の定義
リースの表現定理から, 空間の弱収束は次の条件に言い換えられます.
命題 2.
関数列 と関数 に対して, 次は同値
1. が に弱収束する
2. 任意の関数 に対して,
\begin{equation}
\left| \int f_k(x)g(x)\,dx - \int f(x)g(x)\,dx \right| \rightarrow 0
\end{equation}
さらに, 強収束は弱収束より「強い」こともわかります.
命題 3.
関数列 と関数 に対して, が に強収束するとする.
このとき, は に弱収束する.(証明)
が に強収束するとする. このとき, 任意の線形汎関数 に対して, において,
\begin{equation}
\left| L(f_k) - L(f) \right| \le \left\| L \right\|_{L^2(\Omega)^\ast} \left\| f_k -f \right\|_{L^2(\Omega)} \rightarrow 0
\end{equation}
となることから従う.
に弱収束すること
これを示すには, 命題 2. により, 任意の に対して
\begin{equation}
\left| \int f_k(x)g(x)\,dx \right| \rightarrow 0
\end{equation}
が言えればよいことがわかります. さらに, 次の近似定理により が十分に良い性質を持つときに示せば十分であることがわかります.
定理 4(稠密定理).
コンパクト台を持つ無限階微分可能な関数の集合 は において稠密である.
すなわち, 任意の , に対してある が存在して,
\begin{equation}
\left\| g - g_\varepsilon\right\|_{L^2(\Omega)} < \varepsilon
\end{equation}
が成り立つ.
それでは, 例1. めっちゃ振動する場合の収束を確かめましょう. について一回連続微分までを仮定できるので, 部分積分により,
\begin{align*}
\int f_k(x)g(x)\,dx
&= \int_{0}^{\pi} \sin{(kx)} g(x)\,dx\\
&= -\int_{0}^{\pi} \dfrac{\cos{(kx)}}{k} g'(x)\,dx \\
&\le \dfrac{1}{k} \int_0^\pi \left|g'(x)\right|\,dx\\
&\rightarrow 0
\end{align*}
となり が大きくなるにつれて のオーダーで に収束することが示せます.
ちなみに, このオーダーでの収束自体は について一様連続であれば示すことができます*4.
大雑把に証明について述べます. 積分領域を, の符号が変わる で分割することにすると,
\begin{align*}
\int f_k(x)g(x)\,dx
&= \sum_{i=0}^{k- 1} \int_{i\pi/k}^{(i+1)\pi/k} \sin{(kx)} g(x)\,dx\\
&\sim \int_{0}^{\pi/k} \sin{(kx)} \,dx \times g(0) + \int_{\pi/k}^{2\pi/k} \sin{(kx)}\,dx \times g(\pi/k) + \cdots \\
&= \frac{2}{k} \left(g(0) - g(\pi/k) + g(2\pi/k) - g(3\pi/k) + \cdots \right)
\end{align*}
となることが の一様連続性から得られます. さらにここで とすると, 隣り合う項同士が足し引きされて, 0となります.
今度は, 例2. どこかに凝集する場合を確かめましょう. 積分領域が ] で狭まっていくことから,
\begin{align*}
\int f_k(x)g(x)\,dx
&= \int_0^{1/k^2} k g(x)\,dx\\
&\sim \int_0^{1/k^2} k \times g(0)\\
&= g(0)/k \rightarrow 0
\end{align*}
が従います.
最後に, 例3. 無限遠へさまよう場合を確かめましょう. はコンパクトな台を持つので, を ] となるように選びます. このとき に対して,
\begin{align*}
\int f_k(x)g(x)\,dx
&= \int_k^{k+1} g(x)\,dx\\
&=0
\end{align*}
により, に収束することがわかりました.
強収束しないこと
命題3. により, が強収束するならば, となることが必要でした.
一方で, いずれの例であっても は には依らない定数*5なので, に強収束しません.
実際, 例1. めっちゃ振動する場合には, 半角の公式により,
\begin{align*}
\left\|f_k\right\|_{L^2(0,\pi)}^2
&= \int_0^\pi \sin^2kx \,dx\\
&= \int_0^\pi \dfrac{1-\cos{2kx}}{2} \,dx\\
&= \left[ \dfrac{x}{2} -\dfrac{\sin{2kx}}{4k} \right]_{x=0}^\pi\\
&= \dfrac{\pi}{2}
\end{align*}
となり, に依存しません. 残りの場合についても容易に*6確かめることができます.
そのほかの例
ノルムが固定された状態で に概収束するような例が該当することがわかりました.
例3. 無限遠にさまよう に似ている例として, このようなものも考えられます.
例4. 分散していく
における関数列 を,
\begin{equation}
f_k(x) =
\begin{cases}
\dfrac{1}{k} ,\quad x \in \left(0, {k^{2}}\right),\\
0, \quad otherwise
\end{cases}
\end{equation}
と定めると, 定数関数 に弱収束するが, 強収束しない.
参考文献
こちらの 2.9 節に3つの例が紹介されています